透過型回折格子フィルム分光器を用いたスペクトル測定 これまで、いろいろな講座で、透過型回折格子フィルムを用いた手作り分光器を作ってもらってきた。分光器の概要は下図のようで、大変簡単なものである。まず、黒画用紙で四角い筒を作り、この片方にやはり黒画用紙にハサミで筋状の切り口を入れ、スリットにしたものを貼りつける。もう片側には回折格子フィルムを貼るのである。このとき、講座では、回折格子フィルムが1次回折光の向きに向くように少し傾けて取り付けている。スリットからの直接光が目に入らないようにしたつもりであるが、実際には目に入ってくるので、これはそれほど重要ではない。回折格子フィルム側から光源に向かって分光器を覗くと、そのスペクトルを直視することができるので、スペクトルを簡単に体験することができる。講座では、白熱電球、電球型蛍光灯、LED電球、青空などを見て、そのスペクトルの違いを理解してもらっている。 今回、目で見たスペクトルをなんとか定量化できないかと考え、回折格子フィルムのすぐ近くにカメラを置いて撮影してみた。その結果が次の写真である。 これは殺菌灯のスペクトルを撮影したものだが、水銀の輝線が綺麗に見える。この写真は、分光器の分解能を見積もるために、できるだけ狭いスリットにしたため、線が途中で途切れたり、歪んだりしているのが見える。この写真をImageJというソフトを用いて、グレースケール強度を求めたものが次の図である。 水銀の輝線に対応するところにはそれぞれの波長を入れてある。写真とは思えないくらいの綺麗なスペクトルが得られていることが分かる。輝線の波長と写真の場所との対応を調べてみると、ほぼ直線的になっているので、その傾きや切片から横軸を波長に換算して示している。さらに、輝線の幅から分解能を見積もると1.3nmになっていることも分かった。 このように手作り分光器でも写真撮影をすると、結構、それから綺麗なスペクトルが得られることが分かった。しかし、通常、分光器にはスリットから入った光をコリメートさせるための凹面鏡が用意されているのに、この分光器ではそんなものはなく、写真を撮るときにフォーカスを合わせるだけである。それでも、こんな綺麗なスペクトルが得られるのが何となく不思議に思われた。そこで、少し解析してみた。 光学系としてみると、途中に回折格子があって、やや複雑なので、光線行列という方法を用いて解析してみた。これは光学素子の効果を行列として表す方法である。その概略を上の図に表す。Sは光源で、その像Iが焦点面Fに作られるとする。光源の位置を中心線からの距離
というように行列を用いて表すことができる。 回折格子からは決まった方向に回折光が放出される。真空中にある透過型回折格子の場合の干渉条件は その後、光線はレンズで曲げられ、焦点面F上の ここで、行列は右から左へ、 と求めることができる。ここで、 となる。 光源から出た光がどの方向に行こうと、焦点面の一点に収束する条件は、 という収束の条件が求まる。この関係式はレンズの公式、 と表すことができる。 この関係を図に表したものが上図である。つまり、カメラレンズでスリット位置に焦点が合うように調整すれば、同時に回折光の焦点も合うことになる。この時、光線行列の近似の範囲内では、焦点面上での回折光の位置は波長に比例してずれることになる。 |