テレコンバージョンレンズの仕組み

 

 望遠レンズの焦点距離を伸ばす方法として、テレコンバージョンレンズ(テレコンバーター。略して、テレコン)を入れる方法があります。これには2つのタイプがあって、一つはレンズとカメラ本体の間に入れるタイプ(リアコンバーター)、もう一つはレンズの前に取り付けるタイプ(フロントコンバーター)です。レンズの取り外しのできないコンデジが出現してから、レンズの前に取り付ける後者のタイプは急速に普及してきました。今回は、フロントコンバーターについてその仕組を説明します。

 フロントコンバーターは凸レンズと凹レンズの組み合わせでできています。例えば、上の図のレンズL1L2の組み合わせがそれに当たります。このとき、2つのレンズの焦点位置を一致するようにすると、平行光線が凸レンズL1に入射すると、その焦点位置P1に収束するように曲がりますが、凹レンズL2があるために再び平行光線になって出力します。つまり、テレコンは平行光線をビーム径を変えて再び平行光線として出力するレンズ系なのです。テレコンを覗くと景色がそのまま見えますが、その大きさが少し大きくなっています。つまり、テレコンはそれ自身では焦点を結ばない光学系なのです。

 

 テレコンを通って平行光線になった光はカメラレンズLに入り、撮像素子I上の点P2に焦点を結ぶことになります。この時、例えば、図の一番上の光線に着目して、P2Aを結ぶ線と、CDを通る入射光線をそれぞれ延長して、その延長線が交わる点Bを考えます。この延長線でできた光学系は、レンズL1L2Lを考えずに、仮想的な凸レンズL'を考えた場合と、カメラレンズLと撮像素子Iの間の光線を考える限り、全く同じ光路を通ることになります。つまり、仮想的なレンズを考えることで、テレコンの役目を説明できるのです。

 

 この時、仮想的な凸レンズL'の焦点距離は、三角形P2OAと三角形P2O'Bの相似関係から、カメラレンズの焦点距離をとすると

 

 

と求まります。ここで、はテレコンの凸レンズと凹レンズの焦点距離です。また、はテレコンの倍率を表しています。すなわち、テレコンを用いると、カメラレンズの焦点距離を倍増大させることができるのです。

 

 しかし、この焦点距離が伸びるという考え方は、被写体が無限大の距離にあるときにだけ使える考え方です。実際の撮影では、別の考え方が必要になります。その場合の光学系を次に載せます。

 この図は、Sで表した被写体(光源)をテレコンを用いて撮影している例です。この場合の光路を書くためには、まず、L1レンズでSの実像をRに作ることを考えます。図では、実線は実際に光が通る光路を表し、破線は仮想的な線を表します。すべての光路を描くと図が複雑になってしまうので、実線については必要な部分だけを抜き出して描くと次のような図になります。

 

 光源Sの先端から出た光線のうち、実像を考えるのに必要な光線は、軸に平行な光線と、凸レンズL1の中心を通る光線です。この2本の線によって、実像Rの位置を特定することができます。一方、軸に平行な光線は、凹レンズL2の作用で再び平行光線になり、カメラレンズLに入射し、焦点位置P2を通り、撮像素子上に焦点P3を結びます。

 

 次に、実像Rの先端を通り、凹レンズL2の中心を通る光線を考えます。この光線もそのままカメラレンズLに入射する光線として考えることができます。カメラレンズLに入射する光線には、先に述べた平行光線と凹レンズの中心を通る光線があることになり、それが最終的には撮像素子上に像を結ぶことになるのです。この光学系は、それぞれの線を入射側に延長したところに虚像Vがあるとして考え直すことができます。つまり、光源Sから出た光は、テレコンの作用により、虚像Vから出た光としてカメラレンズに入ることになります。カメラレンズの立場で言えば、光源の位置が無限大の距離にない場合には、光源の位置が見かけ上近くにあり、しかも、像の大きさは小さくなるわけで、その分、カメラレンズの位置を変えて焦点を合わせ直さなければならないことを意味します。

 

 虚像のできる位置はレンズの公式を用いて求めることができます。テレコンの凸レンズL1から光源までの距離をとすると、実像Rが出来る条件として、

 

(1)

という関係が得られます。ここで、L1と実像までの距離を表します。さらに、光源Sの高さをとすると、実像Rの高さはとなります。また、虚像Vの高さは図からになることは容易に分かります。RVの間には、L2を中心とした三角形の相似関係があるので、

 

(2)

という関係があります。ここで、L1から虚像Vまでの距離を表します。まず、(2)式からを消去し、次に(1)(2)式からを消去します。(2)式を変形すると、

 

 

という関係が得られますが、(1)式から得られる関係式を用いると、

 

 

という関係が求まります。ここでさらに、という関係を用いると、

 

(3)

となり、虚像の位置の関数として求まります。

 

 それでは、テレコンを入れると、何が倍になるのでしょう。そのため、倍率を計算してみます。テレコンを入れた時と、入れない時にそれぞれ焦点を合わせ直すと、カメラレンズの位置はずれていきます。テレコンを入れない場合に、光源SとカメラレンズLとの距離、そのときのLと撮像素子Iとの距離をそれぞれと書くことにします。すると、テレコンを入れない場合の倍率はになります。

 

 一方、テレコンを入れた場合の倍率は、虚像の大きさがもとの光源の大きさの倍なので、それも加味すると、と表されます。したがって、その比をとると、

 

 

となります。ここで、十分遠方を撮影する場合を考えると、が成り立ち、さらに、となるので、

 

(4)

とすることができます。したがって、有限な距離にある被写体を撮影するときには、テレコンを入れると焦点距離が倍になるのではなくて、像倍率が倍になると考えた方がよいのです。また、(4)式でも分かりますが、が成り立つ限りは、基本的にテレコンをどこにおいても倍率は変化しません。