クローズアップレンズの仕組み
接写倍率を上げるのに簡便に用いられる方法として、主レンズにクローズアップレンズを取り付ける方法があります。この方法の原理について述べてみます。
クローズアップレンズは、虫眼鏡の原理で、光源としての物体を虚像として拡大する役目を持っています。クローズアップレンズを取り付けた主レンズは、その虚像をあたかも光源となる物体のように見做し、最終的に撮像素子上に実像を作ります。その原理を次の模式図で示します。
この図で、クローズアップレンズをL1、主レンズをL2で表しています。光源となる物体S1をクローズアップレンズL1の焦点距離内に置き、その像を虚像としてS2に作ります。主レンズL2は、S2があたかも光源物体であるかのように見做し、その実像をS3につくるというわけです。
このとき得られる倍率について考えてみましょう。レンズの焦点距離、像とレンズ間の距離やレンズ間距離を図のように決めることにします。すると、クローズアップレンズL1で虚像を作るときのレンズの公式は
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(1) |
と表されます。また、主レンズL2によって虚像S2から撮像素子上に実像S3をつくるときのレンズの公式は、
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と表されます(虚像を作るときと、実像を作るときとでは、プラスとマイナスの符号が異なることに注意してください)。さて、このときの倍率は
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(3) |
で得られます。
これらの式から、倍率を表す一般的な関係式を求めることはできますが、かなり複雑な式になるので、もっと簡単な場合として2つのレンズが密着している場合を考えます。すなわち、の場合です。このとき、(2)式は簡単に
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(4) |
と表されるので、(1)式と(4)式を辺々足し合わせると、
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(5) |
と表すことができます。この式は光源となる物体が凸レンズからの距離にあり、実像がレンズから
の距離にあるところにできたことを示すレンズの公式そのものです。また、そのときの焦点距離は
で表されます。すなわち、クローズアップレンズを主レンズに密着して取り付けた場合は、あたかも、主レンズの焦点距離が変化したように振る舞うのです。このとき、合成した焦点距離を
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(6) |
と書くことにします。
のときは倍率を表す(3)式も簡単になり、
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と表すことができます。従って、(5)式の両辺にを掛けて変形すると、
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すなわち、
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という式が求まります。以前、行ったときと同様に、をカメラレンズと撮像素子との距離とおくことで、合成焦点距離さえ分かれば、倍率を求めることができます。
例えば、Micro Nikkor 55mm/2.8のレンズに焦点距離200mmのクローズアップレンズを取り付けることを考えると、レンズを密着して取り付けることができる場合の合成焦点距離はという関係式から、43.1mmとなります。すなわち、主レンズの焦点距離を少し短くすることができるのです。倍率は(9)式で求められるので、焦点距離を短くすると倍率を上げることができます。実際に
として倍率を求めてみると、クローズアップレンズがない場合は0.5倍、ある場合は0.91倍と倍率を上げることができます。ここで、55mmはレンズの焦点距離、27.5mmは接写を行うときの主レンズの繰り出し量です。
合成焦点距離を表す(6)式からも分かりますが、クローズアップレンズの効果は主レンズの焦点距離が長いほど顕著に現れてきます。例えば、焦点距離が200mmのクローズアップレンズを焦点距離55mmの主レンズにつけたときは、合成焦点距離は43.1mmとなり、焦点距離は22%ほど減少するだけですが、300mmのレンズに付けたときには、合成焦点距離は120mmとなり、60%も減少することになります。
クローズアップレンズを何枚も重ねる場合も原理的には同じで、1枚目のクローズアップレンズで作った虚像を、今度は2枚目のクローズアップレンズの光源物体と考え、再び虚像をつくり、・・・というようなことを繰り返していけばよいのです。このときの、最終的な合成焦点距離は
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(10) |
で表されます。
レンズ間の距離が0でない場合には、倍率を式で表すと大変複雑な式になります。そこで、その場合のシミュレーションをしてみることにしました。用いた式は(1)、(2)、(3)の3つの式だけです。例として、Micro Nikkor
55mm/2.8のレンズにいろいろな焦点距離のクローズアップレンズを距離
だけ離して取り付けたときの倍率
を考えてみました。このとき、
として固定して計算していきます。その結果を次のグラフで表しました。
この図では、例として、KenkoのACクローズアップレンズNo. 1()〜No.10(
)を取り付けた場合を示しています。主レンズとクローズアップレンズの距離が離れると倍率が少しずつ減少していきますが、焦点距離が極端に短い場合を除いて、それほど大きく変化するわけではありません。従って、倍率を考えるだけのときには、
として考えた上の議論でも、ある程度は可能であることが分かります。