F値と最短撮影距離、最大撮影倍率
カメラと被写体までの距離(撮影距離)と倍率、F値との関係、および、最短撮影距離や最大撮影倍率についてまとめてみました。
1)無限遠方を撮影したとき
カメラで無限遠方を撮影することを考えます。このとき、下図に示すように、レンズと撮像素子との距離は焦点距離fになります。絞りを開放にした場合(下図上)、レンズの口径をDとすると、開放F値はF = f / Dという関係式で求めることができます(撮像素子の位置はカメラボディ上にΦのような記号で書かれています)。絞りを絞って実効的な口径がdに変わると、F値もF = f / dと変化します(下図下)。
2)無限遠より近くを撮影したとき
次に、近くを撮影する場合について考えます。この場合には下図で示すようにレンズの位置を前に移動させてピントを合わせます。ピントが合った時のレンズと撮像素子との距離をb、被写体とレンズまでの距離をaとします。
このときは、次のレンズの公式が成り立ちます。
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(1) |
また、倍率mは
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で与えられ、撮影距離xは
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で求められます。ここで、mとxの間には
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という関係があります。この式を導くには、(2)式を使ってb = maとし、また、(1)と(2)式からa = f(m+1) / mという関係式を導き、(3)式に代入すればよいのです。撮影距離と倍率の関係をf = 55 (mm)の場合にプロットしたものが次の図です。
横軸は倍率、縦軸は撮影距離を表しています。倍率mが小さくなると、撮影距離は急速に伸びていきます。撮影距離は、等倍(m = 1)の時に最小値x = 4fを取り、mが増加するにつれ再び増加していきます。従って、xは最小値4fより大きなところでのみ値を持ち、1つのxの値が2つの倍率に対応することになります。倍率が等倍より小さいところに限れば、倍率と撮影距離は1対1で対応し、その関係は
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で表されます。
実効的なF値は
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で表されるので、無限遠を撮影した時のF値をF∞と書くと
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として求めることができます。ここで、 (1) 式を変形して得たb
/ f = b / a+1 = m+1という関係式を用いました。
3)最短撮影距離と最大撮影倍率
ヘリコイドでレンズを繰り出して、最大hだけ前方に移動できる場合を考えます。このときの最短撮影距離xmと最大撮影倍率M、および、実効F値を計算してみましょう。
レンズと被写体までの距離をamとし、レンズと撮像素子までの距離をbmとすると、bm
= f+hという関係が成り立ちます(上図上)。従って、実効F値、最短撮影距離、最大撮影倍率は
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(7) |
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で表されます。この場合にも(4)式や(6)式は成り立ちますので、
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などの関係式が得られます。また、レンズの公式(1)から、am =
bmf / (bm-f)
= bmf / hが導かれるので、これより、レンズの最大繰り出し距離hは
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と求められます。
4)接写リングを取り付けた場合の最短撮影距離と最大撮影倍率、実効F値
最後に、レンズとカメラの間に厚さheの接写リング(Extension ring)を入れた場合を考えます(上図下)。このときの最短撮影距離xeと最大撮影倍率Me、および、実効F値を計算してみましょう。レンズと被写体までの距離をaeとし、レンズと撮像素子までの距離をbeとすると、3)の場合と同様にしてbe = f+h+heという関係式が成り立ちます。従って、実効F値、最短撮影距離、最大撮影倍率は
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で表されます。この場合にも(4)式や(6)式は成り立ちますので、
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となります。また、(11)式と同様にして、
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と表されます。
5)計算例
例えば、Micro Nikkor F2.8, 55 mm の接写用レンズに厚さ27.5 mmのPK-13という接写リングを取り付けた場合の最短撮影距離、最大撮影倍率、実効F値を計算してみましょう。
カタログによれば、このレンズの最大撮影倍率は0.5倍です。このとき、最短撮影距離は(9)式を用いて、xm = 55 (0.5+1)2/0.5=247.5
(mm)となります。これらのデータを用いて、まず、ヘリコイドの最大繰り出し量hを求めてみましょう。hは(11)式を用いて、h = 27.5 (mm)になります。厚さ27.5
mmの接写リングを取り付けた場合は、最大撮影倍率は(17)式から、Me
= (h+he) / fと表されますので、Me = 1となります。さらに、このときの開放F値はF = 2.8(1+1) = 5.6、最短撮影距離は(15)式を用いて、xe
= 55×(1+1)2/1 =
210 (mm)となります。